昭和の初めから6、7年ごろまで、モダンボーイ・モダンガールが登場し、カフェー、演劇、映画、雑誌・広告、文学、そして猟奇犯罪まで、いわゆる「エロ・グロ・ナンセンス」が社会を席巻した。
つまり「エログロナンセンス」とは、
EROTIC:色情的
GROTESQUE:猟奇的
NONSENSE:非常識
このような退廃的な社会風潮を指します。
浅草オペラで人気ナンバーワンを、ダンサーとして評価の高かった沢モリノと二分したのが河合澄子だった。
1930年、「河合澄子舞踏団」を結成したときの新聞広告コピーは「超エロレヴュー」だったという。
大正から昭和初期にかけては「エロ・グロ・ナンセンス」の時代と言われる。そういう時代のシンボルの一人が河合だった。
河合が朱鷺色のタイツに短いスカートをはいて、微笑みながら舞台で踊り始めると、若い男性たちが興奮し、「河合、河合!」「フレイ澄子!フレイ澄子!」と連呼したという。
日本人は昔からアイドル好きであり、また物珍しいものが好きである。
しかも、明治時代から西洋文化を取り入れることに熱心。
■ 「マーカス・ショウ」と検閲
アメリカから「マーカス・ショウ」を招聘すれば大ヒット間違いなかった。
ただ一つ問題があった。
「マーカス・ショウ」の最大の売りは美人ダンサーのミス・ハッチャが全身に銀粉(銀色のドロ)を塗った「ブロンド・ビーナス」でした。
その当時は舞台も映画も検閲が行われていた。
検閲は「内務省警保局」である。
特に風俗に対しては
「過剰エロは毫も近代文明人の生活に混在を許さざるもので、これを社会の表面に露出することは諸悪と共に許すべきではない」
と発表していた。
女性の膝小僧が着物の裾から覗くという程度でも「エロ」であるとして検閲でダメになっていた。
当然に「マーカス・ショウ」にも検閲が入った。
3月1日から開幕で、27日に警視庁の「検閲」があった。
その様子が3月1日の新聞で記事になってます。
それによると、アメリカ美女が肉体美で踊るのをじっと見た警官は
「衣装が過激すぎる!」
「あそこは隠せ!」
「これは困る」
といろいろと指摘されたそうです。
肉体美は極力封印の方向に
「マーカス・ショウ」側も
「アメリカでは市長も激賞したんだぞ!」
とか、抗議したんだけど、けっきょく衣装は手を入れることになったのだそうです。
同日の「東京朝日新聞」(朝刊第二面)には、三段抜きの大活字で
嘆きの肉体美/「ヘソを隠せ、乳を覆へ」/マーカス・レヴユー団の舞台衣装に/警視庁のきついお叱言
新聞に掲載され、世間を騒がせています。
美人ダンサーのミス・ハッチャが全身に銀粉(銀色のドロ)を塗った「ブロンド・ビーナス」の裸は禁止され、胸とヘソと腰は隠したました。
だが全身に塗った銀粉(銀色のドロ)のおかげで、布で隠していることが分からず、全身のラインがハッキリと分かったのです。
これには日本男子は沸き返りました。
当時の日本では安来節のすそがひらひらして赤い腰巻が見えてるだけで興奮し、短いスカートがひらひらするだけで萌えていたのですから…。
かくして「マーカス・ショウ」は大盛況となり毎日毎日連日のように客が押し寄せたと言います。
「エログロナンセンス」が許される社会がより平和な幸せな社会なのかも知れません。